日本初!?ダウン症のある人が主人公のSF小説
Posted on 7月 23, 2013 by DS21.info
書評家の大森望氏が「日本SFの中軸を担うべき作家たち」12人の書き下ろし短 編を編んだSF作品集「NOVA」。
その第10弾となるアンソロジーに「ダウン症のあるぼく」が主人公の短編『ぼく とわらう』が収められています。
ダウン症のある主人公のSF小説は日本初、おそらく世界初ではないかと思われます。
作者は木本雅彦氏。
WIDEプロジェクトにも参加しているUNIX/インターネットのエンジニアであり、
小説家、ライトノベル作家としても活躍。
著者自身がダウン症のある子供を持ち、その経験をSFに昇華させた内容となっています。
それゆえ、同じダウン症の子を持つ親として、読んでいてとても興味深い内容でした。
ダウン症候群に関する様々な医療分野の研究が発展し、
「出生前検査」から「高度な遺伝子治療」までが確立した未来。
そこは日常的に記録されるライフログが広く普及した世界。
wikipediaによると「ライフログ」とは「人間の生活・行い・体験(Life)を、映像・音声・位置情報などのデジタルデータとして記録(Log)する技術、あるいは記録自体のこと」。
ある日、ダウン症の主人公に自伝執筆の依頼があります。
「言葉を操ることが苦手」な彼は、過去に関わりのあった3人の女性のライフログから自分の人生の記憶を補完しようとします。
ところが…。
本人以外のライフログを通じて、本人の記憶が補完される、というアイディアはとてもリアリティがあって面白いと思いました。
facebookやブログもライフログの一種ですが、
自分を含め(障害の有無に関係なく)子供をもつ様々な家族が子供の記録をインターネット上に残しています。
そこに記録された内容は、いつか自分の記憶を補完してくれるものになるのでしょう。
私自身も小さい頃に親が撮った写真を見て、当時の記憶を補完したことがありますし、
みなさんにもそういった記憶があるはずです。
また、主人公の母親も興味深い人物でした。
「複数のライフログシステムの標準化」、「記録する情報の形式を設計」した母親。
力強く「運命を使命と受け取った」両親が息子に託したものとは?
最後まで興味深く、近く現実となるであろう未来を予感させるお話でした。