日常のインクルージョンな風景を切り取った絵本

Posted on 2月 14, 2022 by

 

私の息子は地元の保育園へ0歳から6年間通いました。
保育園のクラスで障害のある子どもは私の息子だけでしたが、成長と共に周囲の子どもたちが息子を気に掛けるようになりました。クラスの子どもたちには息子にダウン症があるという事実を伝えてはいませんが、少しだけ違う特徴があることに気がつき、自然とサポートしていたのだと思います。その状態をインクルージョンと呼ぶのかもしれません。

さて、そういった日常生活の風景を切り取った絵本『りょうちゃんのこと』をご紹介します。

この絵本は、ダウン症のあるりょうちゃんのお話です。りょうちゃんは、言葉もうまく話せないし、お友達とも上手に遊べません。でも、周りにいるお友達は一緒に過ごすことで、りょうちゃんと仲良くなれる方法を見つけてくれました。「言葉のやりとりが苦手でも心では通じ合えるよ。だから、ぼくたちは友だち」共に生きるあたたかな社会について学ぶ絵本。

この絵本には(私のような経験者にとって)劇的な感動がある訳ではありませんが、おそらく日本中の保育園で自然発生しているインクルージョンの風景を垣間見ることができます。

作者のみやち ゆかさんに話を聞きました。

DS21.info
こんにちは。著者プロフィールに

小田和正さんの大ファン。
高校の時からオフコースの私設ファンサークル「Blue☆Scenery」を9年間運営

と記載されていました。

ダウン症業界?で小田和正さんと言えば、
2001年、明治生命(現在の明治安田生命)の
「しあわせな瞬間」フォトコンテストで銀賞を受賞
し、TVCMにもなり、

2004年には松田聖子さん、船越英一郎さんでドラマ化もされた
たったひとつのたからもの
の主題歌でもあるオフコース『言葉にできない』を思い出します。

私の子供にダウン症があると分かった時に、
オフコース『言葉にできない』、
小田和正さんの『たしかなこと』、
何度も何度も繰り替えし聴いたことを思い出しました。
同じ様にダウン症のある子供を持つ親で聴いている方は多いと思いますし、
これらの曲はそういうった親の気持ちに寄り添う曲なのかもしれませんね。

さて、みやちさんは小田和正さんの曲では何が一番好きですか?

みやち ゆか
私は13歳の時からのファンですが、今でも飽きることなく聴いています(笑)好きな曲は沢山あるので迷ってしまいますが、あえて答えるなら、今、一番好きな曲は「ダイジョウブ」です。この大変な日常ですが、気持ちを支えてもらっている曲です。
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良い曲ですね。
私の部屋の二酸化炭素濃度も下がった気がします。

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絵本の話を聞かせてください。みやちさんが絵本を出版されたきっかけはなんだったのでしょう?
みやち ゆか
りょうちゃんは生後6か月から地域の療育センターで同じような障がいのある子どもたちとグループ療育に通いました。2歳からは療育園に通い、3歳で初めて障がいを知らない子どもたちと過ごす保育園に通うことになりました。りょうちゃんは、体も小さくてとてもゆっくりな成長です。何をするにも理解することに時間がかかります。お友達の行動を見たり、自分で経験することで少しずつ学んでいきます。言葉のやりとりも難しく、みんなと上手に遊ぶことができませんでした。周りを困らせてしまうりょうちゃんのことを、お友達は変な子だなぁと思っていたでしょう。
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私の息子も保育園に通っていましたが全く同じ状況でした。
みやち ゆか
りょうちゃんも自我が芽生えて、いやなことや、やりたくないこと、やめてほしいことなど言葉で気持ちが伝えられないので、お友達を噛んでしまったり、髪の毛をひっぱったりするようになりました。いつも私は謝っていました(笑)お友達を泣かせようとか傷つけようとする気持ちはないけど、とっさにやってしまいます。
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 まぁ、私も似たようなものでしたね。今となっては懐かしい…
みやち ゆか
でも、年少から年長にかけて周りのお友達はそんなりょうちゃんのことを少しずつ理解してくれて、寛容な心が育ってくれました。私はそんなお友達の心の成長と、りょうちゃんがお友達と関わるときの最高の笑顔をそばで見てきて心から感動しました。このことを絵本に出来たらいいなと思いました。
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 保育園の世界では、みんな一緒に遊んだり、ご飯食べたり、昼寝したり…その日常の中で自然と他者への思いやりが育まれていくのは、まるで種を植えた植物が成長し、花を咲かせるようですよね。
みやち ゆか
一緒にいることで自然に生まれる優しさや人を思いやる心は、きっと大人になっても心のどこかで忘れずにいてくれることでしょう。世間では社会的弱者に対しての悲しい出来事もありますが、色んな子がいていいんだよって言うことを幼少期から知ってもらうことは、誰もが生きやすい社会に変わっていくように思います。知ることは楽しいことだし、みんなそれぞれ違っていることが自然なこと。障がいがあってもなくても、ほんの小さな思いやりを持てば、多様性を受け入れる豊かな人生につながっていくと思います。この絵本が少しでも一助となれますことを願っています。
DS21.info
 人生のスタートアップ?で違うことを体験することは重要だと思います。もちろん学童期やその先もなのですが。
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絵本の読者からの反響はいかがでしたか?
みやち ゆか
息子の通った保育園の園長先生、担任の先生、くじら組のお友達もとても喜んでくれました。息子の年中、年長とお世話になった加配の先生からは、「あの頃のいろいろな出来事が脳裏に浮かびます。すごく思い出されて、胸がじんわり熱くなりました。僕の書評は一般の読者の方とは違って特例ですよね(笑)。ありありとあの頃のことが思い出されますし、りょうちゃんの静かな成長の速度や、友だちの心が育っていく過程が出来事を通して伝わってきます。それにしても、みやちさん、りょうちゃんの保育園での様子がすごく丁寧に描かれています!「あれ、お母さんどこかで見てたっけ?」と思わされるほど、事実に即して描かれていることに驚きを隠せません(笑)。
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私も読んでみて思ったのですが、大なり小なりエピソードは異なるかもしれませんが、実はこういったことは日本中の保育園で起きているのかもしれませんね。
みやち ゆか
だから読者の方にはりょうちゃんと友だちのやりとりが生き生きと伝わっていく、届いていくと思います。ハンディのある友だちと一緒に生活することの意義があります。友だちを取り巻く出来事を一緒に経験していくことで、いろいろな気持ちが芽生えます。初めて経験することで胸に宿る気持ちがあって、戸惑う気持ちに大人が寄り添います。そういったことをくり返して、優しい気持ちや思いやりの気持ちが育っていくのかなと改めて考えさせられました。そういうことが絵本を読む子どもたちに届いてほしいです。」と感想を頂きました。
私のお友達、親戚や仕事関係の方々、そして、息子がお世話になっているデイサービスなどの関係者からも、すごく絶賛して頂きその反響にはびっくりしましたが、とても嬉しくしあわせな気持ちになりました。この感動は私の一生の宝物になりました。こんなにも周りに支えてくださる方がいるしあわせに、あらためて感謝の気持ちでいっぱいです。みなさんからは沢山の感想を頂きました。
みやち ゆか
「優しい色合いで気持ちがほっこりした」「細かい所にも遊び心があったりとても丁寧に描かれていて感動した」「すごくいい保育園でうらやましい」「純粋な子どもたちに心が温まりました」「周りのお友達が温かく見守ってくれて、りょうちゃんを愛してくれる気持ちが伝わってきて涙が溢れました。この絵本を通して、小さなお子さんもご両親やおじいちゃんやおばあちゃんも、みんなが理解してくれる世の中になることを願っています」「私も初心に戻って人と接したい」「誰かのために何かしてあげたい気持ちになった」娘の幼稚園の時の先生からも「最初に読んだ時、泣けてきました。何でだろ?って思った時に、りょうちゃんの子どもらしい行動を、周りの友達も先生も、そしてママも、温かく見守って受け入れている事に感動したんだなって思います。特に、お散歩の話の園長先生の言葉「りょうちゃんも、みんなも、一緒に頑張ったね」のところが何度読んでも泣けてきます。きっと私も保育士をしているから、こんな声かけができる先生になりたいという気持ちも、あると思います。素敵な絵本を作ってくださり、ありがとうございます。この絵本に出会えて嬉しいです」と感想を頂きました。また、身近に障がいのある方がいると打ち明けて下さる方も多く、絵本を通じてより絆を深めることができました。
そして、ダウン症の親の会「グループたんぽぽ」の先輩ママやお友達からもこんな素敵な絵本を描いてくれてありがとうと言われたことは一番嬉しかったですね。
DS21.info
自分の考えていることを文章でも写真でも絵でも、アウトプットすることで考えを整理できますし、反響があるとさらに嬉しくなりますよね。

今日は貴重なお話を有難うございました。

DS21.info
それでは最後に小田和正さんの『たしかなこと』をカバーしたコバソロ & 菅野樹梨さんの曲でお別れです。確かなことが揺らぐ、この時代。あなたの確かなことって何ですか?

 




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